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「映画ドラえもん のび太の宝島」感想【ネタバレあり】

そんなわけで。いや、どんなわけかは知らないが、とにかく見に行ったのである。

 

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 こんな感じで記事を何本か書いて、「見て!見て!」と催促したわりに、自分の尻を叩くのをすっかり忘れていた。

ようやく3月9日、瞳を閉じれば"ここにいないあなた"がまぶたの裏にいるこの時節、ひとり勇んで映画館入口のドアを開けた。

 

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ユナイテッドシネマとしまえん

この映画館で「ドラえもん」を見るのも、リニューアル後第一作「のび太の恐竜2006」以来12回目のことになる。(「宇宙英雄記」だけ別のところで鑑賞したのだが、ソレはどうでもいい話)

幼少時から今に至るまで映画ドラえもんは毎年の楽しみ。自分自身が"幅広い世代"の一角を、時を越えて担っているんだなあと、なんだか壮大なことを考えた。

 

さて自分語りはこれくらいにして、今年の映画の話に移ろう。

「映画ドラえもん のび太の宝島」(以下「宝島」)は、わさドラ13作目にして7作目のオリジナル作品。

ロバート・ルイス・スティーヴンソンの児童文学『宝島』をモチーフとし、のび太たちは宝島を求めて大冒険!‥‥というお話である。

スタッフについては特に新たに付け加える知識もない(前の記事で紹介はした)が、「脚本・川村元気」がこの映画のすべて、なのかもしれない。この方の作品をよく知っているわけではないが、"ドラえもん"をこの人のパレットで塗ったらこんな色彩になるのかと、ただひたすらそう思わされた。

どこぞの記事によると、今作の主題歌・星野源を発案したのもこの川村氏ということらしい。これまでの参加作品からしても、脚本にとどまらずプロデュースの一角も担っていたことがうかがえるというものだ。

 

さて、御託を並べるのはこのへんにして、映画の感想へとなだれ込みたい。

感想を一言で述べるなら、

「盛ったなあ」

というところか。盛ったといっても"誇張"ではなく"大盛"のほうである。

こってりラーメンもろもろマシマシを飲み干したような、そんな気分となった。

 

エンターテイメント性でいえばオリジナルの中でも上位に来る出来だし、悪い映画でないことは保証する。誤解を招きそうな言い方だが、"映画然とした映画"とでもいおうか。とにかく、娯楽という点では及第点以上の良い作品であったことは疑いようがない。

 

 

‥‥とまあネタバレ無しでの感想には限界があるので、これより映画のはらわたを引っ張り出してあれやこれやと言うゾーンに突入する。

 

"初見"というのは誰にも等しく与えられた貴い権利でありますからして、その権利をこんな場末の過疎ブログの前に捨てるような必要は万にひとつもない。映画未見の方は、タブを閉じてお近くの映画館への経路案内でも検索していただきたい。

 

では、続きを読む以降でお会いしよう。

 

※否定的な意見も含まれますので、あくまで自己責任で。

 

 ではでは、称賛のボキャブラリーを使い果たしたところで、というと既に本音が見え隠れの感も否めないが、とにかくいってみよう。

 

"思ったより面白かった"けど、なんかなぁ‥‥

 

という映画でした。はい。ハッキリ言えば。

 

鑑賞後かなり経っているので、記憶がアイマイな点もあるがご容赦いただきたい。

 

(補足:本来であればここからストーリーの順を追って感想を述べる予定で書き進めていたし、下書きも前半までは残っているのだが、マッタク終わらないまま半月以上が経ってしまったので、良かった点・悪かった点など簡略化して感想を述べることとする)

 

良かった点

・絵がよく動いた。

冒頭の樽の上に乗ったのび太が小物臭満点の海賊船長と戦うシーン、空き地にて宝島を探しにいかんと鼻息の荒いのび太、とか。大山ドラ期を思わせるキャラデザではあったが、動きはわさドラ期のそれであった。

 

・戦闘がカッコイイ。

海賊との戦い、迫力ある映像になっていた。カッコイイだけではなく、最初に来襲されたとき各々の個性を活かした戦いぶり(feat.ひみつ道具)もいい演出だった。

 

・月見台の描き込み。

月見台、というのはのび太たちが住む練馬区の(架空の)地名である。ふだんなかなか描かれないふつうの道をふつうの車が走る様子や、空き地の張り紙など、TVシリーズへの上乗せが今回も垣間見えた。西武9000系を彷彿とさせる電車が"練馬区の大きな川"を渡ってるのが馴染みのある人間としては面白かった。それから、宝島が出航するシーンではしっかりと"モブ"の反応が描かれていたのも今までとは少し違う感じ。

 

・なりきりキャプテンハットの使い方。

登場時の説明とデモンストレーション、ジャイスネ合流時のギャグパート、そして終盤での戦いに活躍でもう一山、とよく活用されていた。この伏線はキレイに決まっていたと思う。やっぱりフリは最初に説明しておかないと活きない。

 

・ミニドラがかわいい。

かわいかったし、なんなら今作の陰のMVP。ミニドラらしくミスする場面が一度もなかったのは少しさみしいが、幾度となくピンチを救った。また出てほしい。

 

・フロック有能。

今作のゲスト少年フロックは未来人で非常に優秀だった。船を直すどころかバージョンアップまでやれてしまう技術力の高さが示されていたことで、最後のバトルも押せ押せの雰囲気に説得力が生まれていた。シルバーとの確執、少年らしく葛藤する姿もしっかり描かれており、キャラクターとして良いものに仕上がっていたと思う。

 

・シルバーの物語。

キャプテン・シルバーという男。幸せな家庭が壊れ、その責任をひとり背負い込むあまり盲目になった男。なにより守りたかった子どもの声も耳に入らない。彼がもがき苦しむ姿。細かい描写のトビはあるにしろ、人間味あふれる男の葛藤を描けていたのは好印象だったし、胸に来るものがあった。また彼自身の描写とはハズれるが、未来を見に行ったときの"死の地球"の演出が好みだった。

 

・演技。

これはもう文句なしなのでは。レギュラー陣はもうナニも言うことはないし、ゲストの大泉氏の迫力ある演技、長澤氏の落ち着いた演技も良かった。サバンナ高橋氏、正直言って気づかなかった。いい枠を勝ち取ったよなあ‥‥ゴニョゴニョ。早見沙織に気づかなかったのはかなりの不覚。

 

・主題歌。

あんなにガーガー言ったわりには、かかったらかかったで”良い曲じゃん”となって終わった。ちょろい。ただ、間奏はてっきり「ドラえもんのうた」だと思いこんでいたのでまったく気づかず、「ぼくドラえもん」なのは帰宅してから知った。

"ひとつの映画の主題歌"に"あの間奏"を使っちゃうのはやはりどうだろうかと思いつつ‥‥でも思いついてしまったのだろうな。仕方ないね。

 

 

ビミョーな点

・「鼻からカルボナーラ

まんま「のび太の恐竜」。オマージュととるか、パクリととるか‥‥同じ作品内だから"オマージュ"であるはずなのに、どうしてもパクリというか、そのまま引っ張ってきました感触があった。○○から△△フォーマット残しならまだ良かったような気もするのだが。

 

・オープニングがない。

必殺「ドラえも~ん」からのカメラ引き、タイトルドーン、そしてオープニング‥‥オープ‥‥

えええええ無いの!?

『夢をかなえてドラえもん』、流れないの!?

おそらく尺の都合なのだろうが、にしてもこれはちょっと‥‥と思う。

TVシリーズで使われてた宝島版オープニング、実は映画に入れようと思ってたけど入らなかったヤツだったりして。そうじゃないと思いたいが。

子どもたちだって歌いたいだろうし、なによりオープニングがあって「ドラえもん世界に入るなあ」という没入感が増すわけで、それを切ってしまうのはいただけない。

ここはフォーマットを守ってほしかった‥‥

 

・スベる部屋ネタ

毎年恒例の部屋ネタ、今回は目立つところに「うそつきかがみ」のイケメンドラのポスターが。脈絡がないわりにはかなり目立ってて、もはや悪目立ちの域だったような気も。あそこまでデカデカと置くならその後の展開に活用すればいいのに‥‥

あとマッタク関係のない押し入れのどうでしょうネタに戸惑った。「自衛隊!総理大臣!警視庁特命係!」的なノリなのかな?だとしてもつながりが見えない‥‥。 

 

野比家の描写

宝島探検、こっそり行けばいいのにわざわざママに許可をとろうとして、当然ダメといわれるのび太ドラえもん。そりゃ「宝島探しに行くよ!」って小学4,5年生に言われてスナオに送り出せる親、宿題をやっていたってそうそういない。

頼みの綱はパパ‥‥だがママの鋭い眼光に負けしぶしぶお説教。ここでキレるのび太。家を飛び出す。後ろめたいパパの顔。別にキレなくても‥‥と思ったけど、後半の展開につなげていたようだ。

このへんの家族描写で「新・日本誕生」の右に出るものはない感じがする。同作がママを絡めて実にわかりやすく明快なシークエンスを作っていたのを見てしまうと、どうしても一段落ちるような、そんな気がする。

 

・特に説明のないひみつ道具

序盤でスモールライトで説明がないのにアレ?となったが、最大の説明ナシは「重力ペンキ」だろう。エネルギーに押しつぶされたドラえもんを助けに行くのび太が機転を利かせて使うわけだが、ここで一切の説明がない。実は船を漕ぎ出したばかりの頃、のび太がマストを駆け上がるのにしれっと使っているのだが、そこでも説明がない。重力ペンキは定番のひみつ道具ではないので、これは伏線とは呼べないし、そもそも子ども用映画だということを忘れているのではないかとすら思ってしまう。

 

 ・ちっこい生き物の渋滞

 クラゲとクイズ。ここにミニドラを入れるかは悩むところだが、少なくとも最初にあげた2つは渋滞していた感じが否めない。特にクラゲは目の前のコワイものに怯える→思い切って一歩踏み出すという点でのび太と重ね合わせていたのは分かるけれど、そこまでして入れる必要があったかというと疑問符が残る。船や地図が壊れていないのならクラゲを出さなくても話はつながるし。あとで書くと思うが、この映画は"情"に支配されているので、わざわざその補強はいらなかったかもなと思ってしまう。

 

・クイズ

アニメオリジナル、それもTVシリーズの象徴だと思う。突然クイズを始めるひみつ道具をさんざん生み出してきた謎の流れがここに結実してしまったか、という印象。TVシリーズならせいぜい10分、長くて20分なのでクイズ回と割り切ることもできるが、映画となると話は違う。ちょくちょく差し込まれるがゆえに存在意義がよくわからなくなるし、なによりテンポが悪くなる。こういう道具を出すと最初はさんざん悩んでヒントとかバンバン出るくせに終盤のクイズは解答者がすべからく天才のようにスラスラ解き始めるのもお約束で、個人的にはあまり好きではない。中盤の"だれ"を回避するために入れたのだとしたら、色んな部分で蛇足となってしまった。

悠木碧さんのお芝居は楽しそうでとっても良かったです。

 

・「奇跡の島」を思わせる話のダレ

フロックとクイズが登場したあと、いくつかの場面でダレたように見えた。船上でフロックとジャイスネが言い争いをするあたりや、クイズと戯れるあたり。カット割りもなにかヘンだったし、会話のテンポもとても悪かった。少し「奇跡の島」を思い出してしまうような、なんとも奇妙なカットだったように思う。物語が進行すればその推進力でダレは解消されただけに、ビミョーな部分であった。

 

・"宝島"の中の世界観

カリブ海を思わせるような町並みや海賊たち、大繁盛の食事処。セーラの部屋あたりはジブリの雰囲気も漂い、なんだかいい感じだと思っていたのに、キャプテン・シルバーの地球脱出大作戦を聞かされて困惑する"島民"の姿に困惑。今まで知らなかったのか‥‥?ただ単に過去の世界で金銀財宝を奪うのを生業としていただけだったのか、その辺りのすれ違いというか認識の違いが初見ではどうも腑に落ちなかった。

 

・挿入歌

挿入歌自体はとてもいいと思うのだが、そこまで後ろに引っ張るのか、と。特に文句があるわけでもなく、それでもすこし引っかかった。

 

のび太のキャラクター

予告編の「オトナがうんたら」発言からすでに心配視されていたのび太のキャラクターであったが、残念ながらその不安が的中してしまった。予告編のシーンにしても、おそらく序盤の両親のいざこざを踏み台にしたかったのだろうと思われるが、彼の両親は「オトナは正しい」をタテにのび太を叱ったわけではなかったし(宿題やってから遊びに行けなんてセリフが正論なことくらい、のび太も意識のどこかで感じているはずだ)、オトナvsコドモの構図の中に割って入って説得するには無理のあるセリフだった。

また、船が漂流して流れ着いた島で食料を探すシーン、なにもとれないのび太は急に「ぼくにはなにもできないや」とトボトボしはじめる。それまで(結果的には助けられなかったとはいえ)しずかちゃんを乗せた敵の船をカナヅチでありながら果敢にも海中まで追いかけているし、船が嵐に遭ったときも揉めるフロック・ジャイスネをなだめ積極的に船を守ろうと尽力していたのび太の、どこを見て「なにもできない」などと思うのだろうか。本人の中でなにかしらの葛藤があったであろうことを差し引いても、このあとの流れのために脚本に"言わされている"感の拭えない一コマだった。

 

その他

・昨年の映画との比較

どこかのブログで去年は"理"、今年は"情"という感想を読んでなるほどと思った。去年の映画は「できそうにないなら一度考えてみる」、今年の映画は「できそうにないけど一度やってみる」。ここからは完全にイメージだが、過去の映画の理と情のバランスが4:6くらいの割合だったとしたら、去年の映画は7:3、今年の映画は2:8くらい。

のび太ドラえもんもフロックもさらにはキャプテン・シルバーも、思いついたことをとりあえずやってみる姿勢では変わらないように見えた。

 

・劇伴

服部氏の劇伴も良かった。特にしずかちゃんとセーラが"宝島"の中を探検するシーン。

でも、少し沢田完氏の劇伴が恋しくもなった。

 

 

おわりに

鑑賞時のおぼろげな記憶をもとに書いているので、見当違いな箇所も多少あるに違いない。川村元気に対するネガキャンを鑑賞前に目撃したのが多少影響しているかもしれないが、少々辛めの感想となった。ドラえもんの皮をかぶったエンターテイメント作品がどう評価されるかはわからないが、少なくとも一般世間の評価は興行収入でもみれば明白に測ることができるだろう。

 

そして来年の監督は「新・大魔境」「新・日本誕生」でその手腕を高く評価され、リニューアルしたTVシリーズの監督にも就任した八鍬新之介氏!おまけ映像には地底のような舞台が垣間見え‥‥もしかしてオリジナル?続報を楽しみに、また年一度のお祭りに参加できる日を楽しみに。