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京都3泊6日3万円チャレンジ - 中盤戦(表)

 
sakushusen.hatenablog.com

 ↑概要と2日目まではこちらへ。

 

引き続き6月はじめに行った旅の模様をお届けしよう。

なお、中盤戦と題しておきながら今回で旅は終わる。

 

 

3日目

三条の進々堂で朝食をとろうとしたが、既に齢人と異邦人で店は大繁盛。イートインはあきらめ、いくつかパンをテイクアウト。三条通を西へ進みつつ、食す。

烏丸通にさしかかろうかという頃、自転車に乗る学生の姿が増える。

中にはよそ見しながら運転している輩も。転倒事故が起こらないか心配になる。

大学でも近くにあるのかしらと思いつつ歩いてすぐ、右手に河合塾京都校が見えてきた。

時刻にして朝の9時すぎ。横を通り過ぎる直前、入口に立つ警備員に睨まれた気がした。サボってるわけではない。私もまた、異邦人なのだから。

 

地下鉄で北上し、鞍馬口駅で下車。寄り道を済ませ、出町柳まで歩く。

住宅が立ち並ぶ中、寺院もまた自然にそこに在る。

門に外部立ち入りを禁ずる柵が置いてあるのを見て、なぜか心が落ち着くこともある。

すべてがすべてに開かれていたら、逆に不安になるような気がする。

全知全能というのも、ひょっとしたらつまらない。

 

再びの鴨川、鴨川デルタ。平日の午前中、幼稚園らしきご一行が水遊びを楽しんでいる。水遊びしたいところだったが、濡れては少々困ることもある。

先日の西日本豪雨では洪水寸前だったという鴨川。この景色も、二度はない自然の営み。

 

出町柳駅から京阪本線に乗り、中書島駅へ。せっかくならばとプレミアムカーの2階に腰を下ろし、後ろに飛んでいく家々を眺める。

吹奏楽を題材としたアニメーション作品とのコラボレーションが開催されているという理由で訪れた中書島駅だったが、宇治・伏見エリアのフリーパスを購入したので下車してみることに。

降りて気づく。酒蔵の町、伏見が近い。

 

利き酒なるものを試してみる。

実は初めて飲んだ日本酒。年をぼちぼち重ねても、口はまだまだ青二才ということか、旨みを味わい尽くすことはできず。

生きていれば避けて通れぬ酒の道。またいつか、あいまみえることもあろう。

 

多少ふらつく足にまかせて宇治川公園を目指していたら、大きく方角を間違えて近鉄京都線向島駅に行き当たってしまった。仕方なしに、京阪宇治線観月橋駅を目指し来た道を戻る。

雲の少ない青空のもと、田畑はまばゆい緑色。否応なしに夏を感じるのは、都会住みだからというわけではあるまい。

 

フリーパスを有効活用するべく、八幡市(やわたし)駅で降りたら男山ケーブルへ。

これも京阪電車なので、フリーパスで乗車できる。

 

最後尾から、登ってきた線路を眺めたら、トンネルが小さくなっていく。別世界に来たような気分になる。千と千尋の神隠しのような感じ。

 

男山の上にそびえ立つは岩清水天満宮

山登りという苦難の先に、我らを救う神がいる。

神道を知らなくとも、"生"の息吹を感じた。

 

再び中書島駅に戻り、京阪宇治線で南下。ちょこちょこ途中下車をはさみつつ、夕方には宇治駅に到着。

 

宿はドミトリー。もうひとりの宿泊者が「響け!ユーフォニアム」の聖地巡礼に来たということで話をするうち、夜の山に登ろうということに。作中で出てきた大吉山という山である。

 

明かりのない真っ暗でうねった登山道を二人で歩く。Goose house工藤秀平氏に似ている彼は栄養士になるべく働いているそうで、夜道の恐怖をまぎらわすようにいろんな話をしてくれた。

そこそこ旅行をしてきたが、旅先で知り合った人と話す、歩くという経験はほとんど初めてに近い。見知らぬ人に声をかけるのは大の苦手だが、共通の趣味はひとつ武器になるようだ。

 

展望台から見える夜景。志を同じくする者が、展望台にかなりの数集まっていた。

 

さて、なぜ「ユーフォ」のファンが宇治に集まっていたかといえば、土日にイベントがあったからである。それも土曜に非公式の、日曜に公式のイベントが、なんと同じ会場で開かれるというから、ファンの鼻息が荒いわけである。

京都アニメーションのイベントに行ったときも思ったことだが、あるコンテンツを好み愛す者がこんなにもたくさんいるのかと知ったとき、同族意識からくる安心と畏れとが毎度入り交じる。

ファンコミュニティのようなネット上の世界が自分の目の前に顕現していること、ちょっと怖い気もしてくる。

 

 

4日目

非公式のイベントに顔を出すつもりだったが、開始時間がゆっくりということもあり、自転車で宇治市内を回ることに。昨日知り合った彼と連れ立って、宿で借りたママチャリでニシヘヒガシヘ。ハンドルを握る手が震える。

 

天ヶ瀬ダム。ハァハァいいながら自転車で走ったダムへの長い上り坂、先の西日本豪雨で土砂崩れを起こし通行不能と聞いた。

京都の水没を防いだこのダム、現在は琵琶湖の水位上昇に伴いかなりの水量で放流が行われているとか。受付の気さくなおじさんの「放流が見ものだけど、台風でも来ない限り放流は見られないんだよー」ということばを思い出す。

 

他は聖地巡礼色が強いので省略するが、昨日会った人と公園の草原でパンを食べながらしゃべることになるとは思いもしなかった。

 

ひととおり回ったところで、宇治市文化センターへ。ここに至る道も急勾配の上りが続く。ゼェゼェいいながら上りきる。

 

本日行われていたのは非公式のほう、ファン有志によるイベントである。内容はコスプレ、即売会、楽器試奏、痛車(車のボディにキャラクターを全面的にあしらったもの)展示、有志によるコンサート。

開催側もどれほどの来場が見込めるかわからず不安だったようだが、即売会は完売続出、楽器試奏にも長蛇の列ができていた。受付時間終了間際にすべりこみ、最後の1人としてトランペットを吹いてみた。チューニングベーってあんなに高いんですね‥‥”金管楽器を吹き続けると唇が死ぬ”理由を心得た‥‥いや、"体得"した。指を押さえるだけで音が変わるサックスって楽だなあと思ってしまったり。

 

コンサートでは宇治まで自前の楽器を持ち寄る愛と根性にあふれたみなさんによる演奏を聞かせてもらった。三日月の舞のトランペットソロが上手だった。

内輪ノリの温かい雰囲気に包まれたコンサートで、「ユーフォ」のコミュニティのバカでかさを改めて感じた。

吹奏楽を全く知らない(知らなかった)人から、コンクールに出るような人たちまで、まあなんと多様な人が集まったことか。

作中に出てくるオーボエ奏者が好きで自らオーボエを買い、教室に通っているファンの方の話を聞いたとき、「ほんとうにいるんだ‥‥」と心の中で都市伝説を聞いたような反応をしていたことがバレていないか気がかりである。

 

大多数の方は翌日の公式イベントにも参加するようだったが、チケットをとれなかった(とらなかった)ので、この日をもって宇治とはお別れ。自転車を乗り回す仲になった彼とも、握手をし再会を願った。また会えたら、とにかく”面白い”と思う。

 

 

さて、なぜか宿を銀閣寺近くにとったので、夕闇迫る宇治を背にまたしても出町柳へ。

またしても商店街で夕飯を買い、鴨川のほとりで即席弁当を広げる。

スーパーを横目に、商店街で惣菜屋豆腐屋、肉屋と回って買い物。楽しい。

 

夜の鴨川(色合いをいじっています)。暗い視界の中、水の流れる音だけが聞こえてくる。

 

このまま寝てしまうのもつまらないと思い、商店街の中にある小さな映画館に足を運んだ。

「出町座」という映画館。カフェや書店と併設されており、カルチャーの香り(なんだそれは)が漂う。ラインナップもメジャーどころというよりは、海外のドキュメンタリーを扱うなど渋いチョイス。建てられてまだ日が浅いようだが、ステキな施設である。

 

学生1000円という値段に惹かれ、飛び込みで見たのは「シェイプ・オブ・ウォーター」。洋画にとことん疎い私でも聞いたことのある、数々の賞に輝いた作品である。旅先で、夜に、ひとりで、映画を見ているという状況に興奮しつつ、映画そのものも大いに楽しんだ。

 

‥‥が、いかんせん洋画の類をスクリーンないしテレビで見ないためか慣れておらず、主人公が虐げられるシーンをみるにつけ「早く終わってくれないかな‥‥」と震えていた。アンパンマンの顔が濡れるやいなや寝室に逃げ帰っていた幼少時代からなにも変わっておらんな、とため息もこぼれるというものだ。

 

いやに文化的な夜を過ごした1080円の宿は、映画を見終わり戻ってきたタイミングで入口のカギが壊れ、中に入れなくなった。その後来た中国人に「でぃすどあーめいびーろっくど!(This door may be locked.)ぜいとらいとぅーあんろっく、ばっときゃのっとおーぷん!!(They try to unlock, but cannot open.)」とたどたどしく説明。なんとか汲み取ってもらえたようだ。

5分後、横の非常口らしき扉が開きなんとか事なきを得た。

 

中はほんとうにオンボロで、ドミトリーなのに床が激しくきしむ、肝っ玉のちっちゃい人間としては激しく精神を摩耗する館であった。相変わらず、カラダを洗うのもたいへんと来ている。

でも、寝られたのでOKです。(親指をグッと突き出す)

 

 

5・6日目

朝ごはんは昨晩目をつけておいた出町座併設カフェの「きゅうり三種サンドウィッチ」。

ボリュームある具材を片手に、カウンターにおいてあった「シェイプ・オブ・ウォーター」のパンフレットをめくる。デル・トロという人物、かなり面白そうだ。

 

さて、6日目といえば深夜バスに心身を削り取られるだけのものに過ぎないから、5日目が実質的な最終日である。

「夏の関西1デイパス」を使い、最終日ばかりは京都を離れてみることにした。

 

 

近鉄京都線でひたすら南下。大和八木(奈良県)で乗り換え、大阪線赤目口駅(三重県)まで1時間半ほど。バスが来るまで少し駅周辺を歩いてみるが、見事なまでになにもない。

橋から見える川の流れは今日も穏やかでー。

西日本豪雨で様変わりしていなければ良いのだが。

 

40分後やってきたバスに乗って到着したのは赤目四十八滝

渓谷を歩けば、数々の滝に癒やしをもらう。

道はかなりアップダウンがある上に、石の階段が濡れていると滑るのが怖い。歩きに歩いて、足は相変わらずじんじん痛む。

それでも、潤いのある夏木立に活力を与えられ、不思議と前に進む進む。

 

透明感著しい水。映り込む新緑を揺らす、小魚の影。

 

時間の都合上、端まで行くことはできなかったが、また来たいと思わせる美しい場所だった。

水槽の中のサンショウウオに見送られ、赤目四十八滝を後にした。

 

とりあえず近鉄で大阪に出て、夕飯。実はこの時点で3万オーバーが確定していたため、開き直って少々リッチな駅ビル夜ご飯。

 これで1000円超えるんだぜ‥‥お金ってのは上に際限がないものだ。

 

帰りのバスは京都から出るので、ひとまず京都に戻る。しかしヒマである。

少しでも現地にいたくて出発時間をつい遅らせてしまうが、酒も女も嗜まぬゆえ夜は案外とすることがない。

 

ここで、フリーパスの存在を思い出す。近鉄往復券とJR区間乗り放題券が入ったセットだが、後者はほとんど使えていなかった。

帰る前に、もうひと回り。琵琶湖線に乗り、大津駅で降りてみることに。

 

降りたのが22時くらいだから、もう夜が張り出して久しい。琵琶湖に続く広い道に、ヒトも車も影を落とさない。京阪京津線の踏切を渡ったら、静かに水の音が聞こえる。

 

夜を映す湖は黒く、空との境もわからない。夜の天球に迷い込んだようだ。

ぽつりぽつりと見える人影はみな釣り人。放浪の釣らぬ人は所在なく、湖近くのベンチに腰を下ろす。

 

自分より大きい存在に体を投げ出して、いろいろあった旅行を回顧する。

 

 

車に乗せてもらったこと。ひもじい昼ごはんで食いつないだこと。

出町柳にのべ3日訪れて、なにかあたたかい気持ちをもらったこと。

外国人に道を聞かれて、たどたどしく返す自分が情けなかったこと。

水を堰き止めるダム。山を祀る神社。

自然と人間のあいだの営み。

別のところから集まったヒトとの、たった1日の遠出。

知らぬヒトの数だけある、知らぬセカイ。

 

 

このまま一夜を過ごしてしまいたい気分になったが、バスが京都で待っている。そして羽虫が掃いて捨てるほど‥‥はたいて捨てるほど飛び回っている。いいかげん追っ払うのにも飽きてきたので、ぼちぼち京都に戻ることにする。

 

バスの待合室に入ったら、パイプ椅子を3席も使って太っちょな女性が爆睡していた。

乗っていない客を読み上げるバス乗務員の声が遠くの方からかすかにするが、いびきに遮られ彼女のもとへは届かない。

結末が気になりつつも、ヒトにはヒトの深夜バス。

幸運にも隣のいない4列シートで、東京に戻った。

 

 

結果

一応目標として掲げていた3万円チャレンジ、達成はならず。細かい地下鉄の運賃や駐輪場代金などを数え忘れている可能性はあるが、イレギュラーな出費を除き概ね3千円オーバーという結果に終わった。このぐらいなら、まあ許容範囲である。預金残高が過去に類を見ないペースで減り続けていたこの時期、なんとか食い止めたと思われる。

 

 

まとめ

琵琶湖のくだりでまとめのようなことを書いたから、改めて書くまでもない。

自由度高く、言い換えればテキトーあるいは思うがままにあちこち飛び回ることのできる一人旅ならではの利点を活かし、楽しい時間が過ごせた。

ふたつ、思うことがある。

ひとつ、なぜ毎度雨が降るのか。雨を流さねば旅行は不成立なのか‥‥?

ふたつ、なぜ今回に限ってあんなものまで流したのか‥‥?

 

 

 

予告

読者の方は不審に思われたかもしれない。この中盤戦、あることに関する記述がほとんどないということに。

むろん、「3万円チャレンジ」のことである。序盤戦では節約にいそしむ様子が垣間見られたが、中盤戦にはほとんどみられない。

『もしかして、途中で忘れてたんじゃないの?』

それもある。だらしのない話だが、そこにはちょっとした事情がある。

 

次回・終盤戦で、そのあたりのことをお話ししよう。

たいしたものではないが、序盤戦・中盤戦の2記事にわたり、伏線はあからさまなものも含めちょこまか張ってある。

おヒマでしたら、推理してみてください。(いや本当にそんな大したものではない)

 

 

 

終盤戦に続く。