色メガネ売場

目の届くかぎり広く、手の届くかぎり深く

もしかしなくても年明けた

手帳が買いたくなると年末年始という感じがする。

3年連続で使わなかった上に3年連続で年半ばにして紛失したのでもう買わない。

 

2018年がやってきた。無限の時間を人間が捉えやすくするためザクザク切り分けただけなのに、どうしてこうも年が終わるとか始まるとかいう感覚があるのだろうね。

染み込んだ感覚と、世間からの圧倒的な同調圧力でもって、私は強引に"年を越している"のである。自分の周りがみんな今日は2018年1月1日!と言うからそうなのね、と納得しているフシがあるような。

 

世俗を離れれば、年を明かすこともないのだろう。ただ、それでは少しばかり暮らしが単調にもなりそうだ。多少強引でもどこかに区切りがないと、リセットの機会を失いそうなもの。リセットせずとも、機会があるほうがいいだろう。

 

考えてみれば区切りというのはすべからく強引なものだ。

かならずどこかで恣意的な線引きをしないと、区切りは生まれない。線を引くにはエネルギーが必要だ。"強”く”引”かねば、区切りはどんどんうすれていってしまう。

 

年の移り変わりというのは、社会に最大のパワーでもってグリグリと引かれた線を意識することにほかならない。自分で線が引けないからこそ、社会が引いた線を有効活用するべきなのだろう。

 

心機一転、一念発起。

掲げては消え行く目標を、性懲りもなく今年も掲げておこう。

掲載料はタダだものね。風で吹き飛んでも拾う必要はないし。

 

一線を画すために、その線を描くために、まずは少々の覚悟をもって年をまたぐ。

本年も、どうぞよろしくお願いします。

京アニのお祭りに参加してきた

(2019年7月18日追記)

sakushusen.hatenablog.com

(追記ここまで)

 

10月28日、みやこめっせで開催された京都アニメーションのファン感謝イベントに行ってきた。

 

少し前の話にはなるが、振り返ってみる。

 

 なぜ京都アニメーションを追っているのか

アニメーションには興味のなかった私だが、「響け!ユーフォニアム」という作品をきっかけに京都アニメーションとの出会いを果たし、ファン感謝イベントに足を運ぶまでになった。なにが私の心を掴んだのか、少しばかり考察するところから始めよう。

 

京都アニメーションは制作工程のほとんどを自社のスタッフで行う。これはわりと特殊な事例で、ほとんどのアニメーション制作会社は外部スタッフを招聘することが多い(わかりやすいところでいえば監督を"呼んでくる"、という形)。監督、演出、そして絵に落として作品として完成させるといった作業を内部スタッフだけで完結させることで、作業の効率化やイメージの統一がなされている(と言われている)。この作業体制で制作された作品は非常に美麗でよく動き*1、高い水準を維持し続けており"京アニクオリティ"とも呼ばれ固定ファンが多いことでも知られる。

私は、このまとまりのある作業体制によってかよらぬかは定かではないが、絵コンテや演出を手がけるクリエイターの並外れた技量や才覚、隠された意図を作品の中から感じとることができるので、お話自体はもちろん"誰がなにを考えて作っているのか?"を考えながら見るのが好きだ。スタッフロールも、こんなに素晴らしいものを作った人は誰なんだと気になってしまう性質上、凝視しては特に良いと思った回のスタッフの名前を覚えることもある。

 

では、なにが良いんだろうか。他のアニメーションに詳しくないので比較はできないが、この会社はあらゆる意味で"細かい"描写が得意である。

 

スタッフが皆高い画力を有しているため、そこここで当たり前のように細かい動きがみられる。さらに、表情の機微を描き分けてしまう。笑顔の中に一瞬見せる哀しみや、微妙な表情の移りかわりすらも絵として出力することができる。その上、登場人物の台詞による説明が一切ないことすらある。絵だけで視聴者に伝わることを前提とした画面作りからは、自社の画力に対する絶対の自信がみてとれる。

こだわるところにとことん徹底する姿勢は、小物などの設定にもみられる。例えば「響け!ユーフォニアム」という作品では大量の楽器が登場するが、それら一つ一つに対して膨大ともいえる資料が存在する。

http://giga-images-makeshop-jp.akamaized.net/kyoanibtc/shopimages/6_000000000873.jpg?1462165184

設定資料集のサンプルであるが、ひとつひとつ細かく描かれていることが分かる。

さらに恐ろしいのは、本編中においてもこれらの楽器が一本一本ほとんど手描きであるというところ。最近はCGの使用もよくみられる中で、手描きを選択するのもかなりのこだわりといえよう。

もう一つ例を挙げるなら、水泳を取り扱った「Free!」という作品の水しぶきもすべて手描きである。すごい。

 

絵コンテについても同様である。配置、構図、明暗などを巧みに操り、ひとつの画面の中に情景や感情を詰め込んでいる。考察記事を読むと、ここまで考えてこの絵を構成したのか、と嘆息することもしばしばである。

 

アニメーションは総合芸術だ。そもそも私は絵を描くことが不得手なので、静止画一枚、原画一枚でも感服のひとことであるところを、それが動き、感情を持ち、生き生きと世界に存在している様子を見ると、並大抵の感想で片付けられる感動ではない。背景や音楽、吹き込まれる命とも形容される声と一体化して雄弁に物語られるストーリーは、よく考えなくてもおびただしい積み重ねの成果であることを認識させられる。

 

よく言われることだが、"撮れてしまう"実写映画やドラマに対してアニメーションは"撮らなくてはいけない"。実写では、ロケに行けばその場所の風景や音や光の差し込みなどがあらかじめ"有"り、その上に俳優の演技、時にはアドリブなどあらゆる要素が偶発的なものも合わせてカメラの中に収まるが、アニメーションにおいて始まりは"無"である。音もなければ光もない。そしてなにより、偶然がない。無の上に世界を細部に至るまで構築し、キャラクターを動かすという点では実写よりも難しいと思う。ここにおいて、細部へのさまざまなこだわりを持って作られ、実写とひけをとらない密度の濃い世界を画面の中に構築できる京都アニメーションが制作する作品を、私は好きになったのである。

 

繰り返すが、他のアニメーションについて私の知識はあまりにも乏しい。上にあげたこれらのトクチョウは他との比較からみえる"特徴"ではなく、あくまで私が感じた"特長"であるということをご理解の上読んでいただければと思う。

 

いざ、みやこめっせ

旅程の都合上、1日目のみの参加となった。下見はバッチリで道に迷うこともない、なぜなら先週向かいの建物で定期演奏会を鑑賞したからだ。2週連続で東京と京都を往復するのは、はたから見れば頭が悪い行為であることに違いはないだろう。

 

受付のあと、バッジを渡された。本イベントのメインポスター(?)でも使われているキャラ大集合の絵だ。これを目印にイベント参加者を見極めるらしい。おとなしく服につける。

このような大規模イベントに参加することはめったにないが、それでもまず物販!という人間の本能で到着した物販エリアには販売前から既に長蛇の列が。そこかしこにTシャツや缶バッジなどのアイテムを身に着けている人がたくさんいて、ここにいる人達みんな同じものを愛しているのかと思うと安心と不安と恐れ(畏れ)とが入り交じった。

販売開始後、どんどん捌けていくタペストリー。30分ほどでヴァイオレット・エヴァーガーデンタペストリーが完売アナウンスが入り、どよめきが物販エリア中に広がった。マジやばくね?

 

遠征に手一杯でグッズにお金をあまり割けなかったが、パンフレットと楽器くんTシャツを購入。ユーフォ2期7話の駅ビルコンサートで部員が着ていたデザインを模した緑色のTシャツも欲しいなあ‥‥

クリアファイルがガチャ仕様で、お目当てのキャラクターを求めて交換相手を探す人もいた。あの中にコンプを目指す伝説の少女Aはいただろうか。

 

続いて、地下の展示コーナー。作品ヒストリーゾーンには登場人物や舞台設定、はては小物に関する京アニクイズがあったり、アフレコ台本とともに各作品の要職スタッフさんのコメントがあったり。「ユーフォ」コーナーにはアノ曲の譜面も飾られていた。あと、キャラクターの身長比較が面白かった。凸守はチビじゃないデース!

 

スタンディングゾーンにはキャラクターのパネルがズラリ。オンエア当時の垂れ幕も各種揃っており、いろいろな作品を作ってきているんだなあという感慨が。お隣の"今!!"ゾーンには作業中の机を再現したものが作品別にいくつか並んでいて、

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中二病でも恋がしたい!」とか、

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響け!ユーフォニアム」とか。公開中の劇場版最新作の新規カットの絵コンテなんかも置いてあった(中は見られないけれど)。

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原画一枚一枚が芸術ですね。

 

レイアウトパネルゾーンは作中で登場した背景が巨大パネル化し、その前で写真が撮れるというもの。ひとりで踏み込むのは気が重い、とあたりを見回すと、

 

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まっがーれ↓(ピンぼけが過ぎる)
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バルサミコ酢ー!

というように京アニが過去に手がけた作品のポスターが全て貼ってあった。AIRからCLANNADからハルヒかららき☆すたからけいおんから、最新作までズラリと。それはもう、壮観だった。

 

次に足を運んだのはOP/EDゾーン。ここにはOP/EDの絵コンテと原画が掲示されている。じっくり見たい人が多く、見学まで少し並んだ。

ユーフォ1期のOP、2期のEDをはじめ、メイドラゴンのあの"狂った"OPのコンテなど存分に見た。たまこまーけっとのOPのコンテが見られたのも嬉しかったなあ。細かいところまで見たかったが、時間と後ろの列の圧力に負けた。納得行かねぇ!

 

スタジオゾーンへ。ここではアニメーション制作の過程が見られる。目の前に広がるのは、来年1月放送の最新作「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の制作風景(のほんの一部)。原画、動画、仕上げ、背景、撮影と一連の工程を、それぞれ担当のスタッフがモクモクと作業しているところをジロジロと見ることができた。撮影の工程でAfter effectsを使っていて、映像をかじっているのでよく眺めてみたけれど、私の知らないAEだった。

 

ここらで3階に上がる。このフロアのメインは原画を始めとする制作資料の展示、なんと3000点以上。キャラクターデザインや設定資料、背景、そして原画、さらに各作品の冒頭10分程度にあたる絵コンテがズラッと並べてあった。ユーフォの変態楽器作画、中二病の戦闘作画、メイドラゴンのしっぽ肉作画(?)、こんなものではほんの一部も紹介できたことにならないくらい、とんでもない量の展示だった。しかし、ここに展示されているのはほんの一部なのだろう。あのクオリティの高い作品のために、クオリティの高い原画がこんなに必要なんだなと、普段流し見てしまうこともあるアニメーションの裏側の膨大な作業量を想った。

絵コンテも興味深く見た。ここからあの世界たちが羽ばたく、その地面を描くことのできるクリエイターさんたちはすごい。

 

その横には、京アニならびにアニメーションDoのスタッフがひとりひとり作製したメッセージカードがズラリ。幸せな気持ちになった。絵を描くというのは素晴らしい芸だなと実感した。武本康弘氏のカードが可愛くて好きだった。

 

時間がちょうど合ったので、新作オリジナルアニメ「バジャのスタジオ」も見た。はじめ、京都アニメーション本社を彷彿とさせる建物にかかっていた垂れ幕をみて「お?凸守のセルフパロディか?」と思ったらそんなことはなかった。しかし動きのひとつからバジャのモフモフ感というか柔らかさが伝わってくる。小林さん役の田村睦心さんが悪役で、あの低い声に魅了された。また見直せば新たな発見があるのだろう。

 

そして最後に向かったのがトークステージ。応募して唯一当たったユーフォのトークイベントである。生まれて初めての声優イベント、ともいえるか。

まず生・白石稔だー!となる。らっきー☆ちゃんねるでいじめられていた白石みのる(CV.白石稔)とどうしても頭の中で比較してしまう。京アニイベントの司会といえば白石さん、なのかな?

そしてメインキャラクター4人を演じる声優さんの登場。ニコ生やラジオで見せていたやり取りそのままに、明るく楽しくステージを彩っていた。関西弁かぶせとか、もはや懐かしい。

さらにシリーズ総監督の石原立也さん、シリーズ演出山田尚子さん、そして劇場版第2作の監督小川太一さんの登壇。出てきたわりにお話しする時間が少なくて残念だったが。こうして作品を作り見せてくれるトップクリエイターの姿をこの目で見ると、なにか頑張らなくてはなと思わされる。具体的なものは何もないが。

一番印象的だったのは、山田さんがふとした拍子に"山田パー"のポーズを取っていたこと。自然なタイミングだったので、あの特徴的な動きはご自身が驚いたときの動きを反映させたものなのだろうか、と邪推を重ねた。

リズと青い鳥」はこの時点だと絵コンテをひねり出してる、とのことだった(記憶はアイマイ)が、ここ最近特報とともに情報が解禁され始めた。楽しみが過ぎる。

 

ステージが終われば、私のイベントも終了となる。座席に上着を忘れ、ひとり順路を逆走する恥ずかしい姿を晒して立つとき跡を濁したが、全体を通して大満足のイベントだった。願わくば、あの資料たちをもう一度、できればじっくり見たいものだ。

 

さらなる作品の発展を願って、今はひとまず新作アニメーション「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」のオンエアを楽しみにすることとしよう。

 

以上、「私の時間を無駄にしないでいただきたい」と言われても仕方のない、つたないレポートでした。

*1:アニメーションとは思えないほどスムーズにキャラクターの動作が描かれている、というような意味。ぬるぬる動く、という褒め言葉がある

三角印の予定表

前に、予定を立てるのが苦手だと書いた。 

sakushusen.hatenablog.com

 

今回は、予定を管理するのも苦手というお話。

 

人付き合いの中で、イベントの日程調査に参加することも多い。○×△で答えるアレだ。大学入学後、その機会はさらに増えた。

 

ここでひとつ悪癖があって、というのは予定があろうがなかろうが△をつけてしまうのである。

予定がないなら○をつければいいのにつけられないのは、予定の重要度や参加希望度を考慮してしまうから。例えばその日一日空いていたとして、その予定で4時間を費やすより、他のさらに充実した予定が入る可能性を考えてしまうのだ。

要は、自分がより楽しい予定を組みたい。そのためには、予定を"上書き"することもいとわない。ただ、それでは断る予定先の相手に申し訳ないから、その免罪符として△を刻んでいるわけだ。"行けないかもしれない"とあらかじめ匂わせることで。

 

○という記号が持つキズのないカンペキさは、時に重い。

完全な肯定は私の苦手とするところであり、それはつまり予定がなくても△を選んでしまう心理と密接に結びついている。

「"あてはまる"と"ややあてはまる"という選択肢があったら、"ややあてはまる"を選びがちですか?"あてはまる"か"ややあてはまる"でお答えください」という質問があったら、ムジュンを蹴散らし"あてはまる"を連打しているだろう。

立場を示しつつも決断を避ける責任逃れの一手ではないか、と言われるともうマルッッッ!である。

 

逆に予定があるのに△を入れてしまうのはなぜだろう。先に検討した場合と、根本は同じだ。前提として、"先約"それ自体に△がついていることが多い。要するに、意図的かつ積極的にダブルブッキングの状況が生まれる可能性を作り出そうとしている。その上で、どちらが自分にとってより有益かつ楽しいものであるか比較検討しようと目論んでいるわけだ。

参加可能性の程度を示す前に比較検討は終わらせておけよ、と思うだろう。これも悪癖であるが、「殿、ご決断を!」と自分以外の存在全てに唱和されるまで一切の決断ができないという私が指定した難病を患っている。物理的に同時参加不可能とか、そういう状況まで追い込まれないと選べないのである。

 

こうやって言語化すると、自分のダメさ加減がありありと見えてくる。○なら○、×なら×と素直に言えたらいいのにな。

 ×が悪いことではないと重々承知はしているものの、やはり×ばかりなのはなんとなくバツが悪い。そんな申し訳なさも、△を多用してしまう一因になっている。

 日程調整においては○が正解、×が不正解を表さないことの意味をもう少し慎重にとらえ、その上で積極的な判断が求められているし、するべきである。

なんせ、大人数の調査をまとめ予定を組む人にとって一番扱いにくいのは△だから。

 

最後に、これは日程調査で△をつけた人への皮肉とかそういうものではなく、単に内省を述べたにすぎないものであり、逆に△を付ける人の心理はなんとなく把握しているので、仮に私が出した日程調査に△をつけたとしても私の目が三角になることはない、と付け加えておく。

台風との待ち合わせ・京都編

 10月後半の話題といえば、大型台風の日本上陸であった。

それによってかよらぬか、秋雨にしては遅すぎる長雨もあり、秋とは思えない寒々しい日々が続いた。

 

天気予報が青い傘で埋め尽くされる中、ひとり震えている男がいた。

寒いからではない。週末は旅行の予定があったのだ。

 

 

旅の前に

秋の乗り放題パスというものがある。

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↑右が秋の乗り放題パス。左は青春18きっぷ

 

ざっくり言えば春・夏・冬の長期休暇にのみ発売される青春18きっぷの秋発売分のことであるが、自由度の面で少しばかり制限もある。

青春18きっぷは"5回分"、つまり期間内であれば分割して使っても複数人で使ってもよいのに対し、秋の乗り放題パスは”連続した3日分”、つまり分割や複数利用ができないのである。

この"3日"というのがなかなか使いにくいと個人的には思う。(祝日がらみの週末にしか使えないではないか)

とはいえ、7,710円(1日分が2,570円に相当)という低価格は十分に魅力的であり、かつ人生で最も平日の予定を操作しやすい時期こと大学生の特権を利用することで、3日間の旅行が可能となった。

 

こうして6月。10月20日から22日にかけて関西方面への旅行が決定した。

行き先は、京都。

 

響け!ユーフォニアム」という作品がある。

anime-eupho.com

高校の吹奏楽部を題材としたアニメーション作品で、 京都府宇治市が舞台設定における中心になっている。同名の小説が原作で、京都アニメーションによって映像化された。

この作品が放送された頃、私は吹奏楽を始めたばかりだった。吹奏楽関連の調べ物をしていて、たまたまたどり着いたのがこの作品の放送決定の告知だったのだ。

当時アニメーションに関する知識が皆無だった私の興味をひいたこの吹奏楽作品は、はたして私のお気に入りとなった。実際の吹奏楽曲が使用され演奏されるさまが精密に描かれているのをはじめ、キャラクターの個性、ストーリー展開、声優の皆さんの演技などどれもが高水準。吹奏楽の合奏では何十もの楽器が一堂に会するが、その一本一本までリアルかつ限りなく正確に描かれており、リアル志向だった私の心をつかんだ。

詳細を語るのはまた別の機会にするが、この作品の存在が私を京都、宇治に向かわせているのは論を待たない。

 

前置きが長すぎて西へ出発する前に2ヶ月も経ってしまった。

いいかげん西へと出かけよう。

 

 

10月20日(金)

午前3時30分 雨

‥‥のっけから雨である。最寄り駅の始発に乗っていては到着が遅れる。ターミナル駅まで5,6kmほど歩いて向かう必要があったのに、また雨雲を呼び寄せてしまった。

雨男の神通力は、望まない時に発揮されるのである。

とはいえただ雨に打たれたわけではない。一週間前から天候不順を憂いていた私は、準備よくレインウェアを購入していた。これで無敵、濡れることはない、そう思った私は私自身を舐めくさっていた。

汗がすごいのである。汗が。

レインウェアというものは防水性を獲得する代わりに通気性を犠牲にするのが一般的だ。10月の夜明け前とはいえ、歩き続ければ熱もこもる。外から中から湿度の殴り合い。目的の駅にたどり着いたとき、私のズボンは雨ざらしで歩いた時に考えられる湿り具合よりも確実に濡れていた。

あまりにも暑かったので、4時台の山手線で半袖1枚になってしまった。はたから見れば雨の中を歩いて雨に濡れたように見えただろうが、違うのだ。雨の中を歩いて汗に濡れたのだ。もうレインウェアなんて着ないなんて、言うよ絶対そりゃ。

 

午前5時10分

品川で乗り換えた東海道本線が発車した。ここからひたすら東海道本線を西へ西へと進むわけだ。夜明け前の東京を走り抜ける電車は、なんとなく頼もしく見えた。がら空きの車内も小田原に到着するころにはそこそこの混み具合だった。

 

午前6時22分

先頭で車窓が見たいという子どものような理由で選んだ乗車位置は全くのミスであり、はるか後ろに停車している熱海行き電車めがけて朝の小田原駅ホームを突っ走るハメになった。今回の旅行では全体的に乗車位置と乗り換えの関係で失敗することが多かったように思える。

小田原を出発したころにはもう日の出も過ぎて、しかしどんよりとした雲が相変わらず空を支配していた。小雨も降り続く。電車の旅は、まだ始まったばかり。

 

午前10時03分

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小田原→熱海→浜松→豊橋と乗り継ぎ、ここで快速への乗車を果たした。東海・西日本地域の快速や新快速の運行は鈍行旅行の時間短縮に大いに役立ってくれる。車内もセミクロスシートでのんびりできるし、このあたりに来るといよいよ遠くに来たなと思い始める。

それにしても、座席運に恵まれていたので道中ずっと座っていた。特に熱海→浜松150分間を睡眠にあてられたことは、ほぼ徹夜で出発した自分への良い贈り物になった。

 

午前11時42分

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名古屋を通過して大垣に到着、すぐに米原行きがやってきた。大垣はムーンライトながらの終着駅として有名だが、この夜行列車に乗ればここになんと午前5、6時台に到着できるのである。いずれ九州地方を目指すときには、お世話になることもあるだろう。その時までに運行が廃止されていないことを祈りつつ、大垣を出た。

 

午前12時20分

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往路最後の乗り換えを米原で済ませた。この区間東海道本線の中でも琵琶湖線の名で親しまれている。しかしお腹が空いた。昼ごはんらしき菓子パンは豊橋で消化してしまった。ダイヤを縫って少しでも早く目的地に到着しようとするあまり、乗り換え時間、すなわち食事を購入する時間がほとんどとれないのはよくある話だが、旅行中になぜ修行のように空腹に耐えねばならないのか、と自問してしまう。

 

午後1時13分

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8時間39分(うち乗車時間は8時間1分)、乗り換え7回、距離にして522.2kmの移動が終わった。関係ないが、JR西日本のサインシステムがデザインも含めてかなりスキだ。

そして京都に着く頃にはなんと雨も止んでいた!なんという奇跡。きっと晴れ男晴れ女を多数擁する修学旅行生のバスが次々と京都に乗り込んだのだろう。

 

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京都駅ビルの大階段から、ステージを望む。

 

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「ユーフォ」では駅ビルコンサートに出場した際の会場として描かれていた。正確に再現されていることがわかる。

 

昼食をとったら、JR奈良線に乗車。

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京阪線に乗りたかったのもあり、隣の東福寺駅で下車。

 

本当は乗り換えるだけの予定だったが、どうせならと東福寺に足を運んだ。

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立派。

 

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まだ紅葉シーズンではなかったが、うっそうとした緑の中にぽつりぽつりと彩りが見え隠れしているのもまたいとをかし。

 

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この夏と秋が同居している感じ、好きだ。

 

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石庭。観光客はみな縁側(?)に座って、心を落ち着けていた。ちなみに私以外にいたのは外国人と年配の夫婦数組のみ。ま、そりゃそうだ。

大学生ひとりも、ぼんやりと自然を想った。

 

駅に戻って京阪本線に乗車。終着駅の出町柳で降りる。京都大学のメインキャンパスも近いが、6月にフラっと入ったので今回はパス。

ここに来た目的は2つ。

阿闍梨餅を買うこと。

駅ビル等でも販売しているが、あまりの人気ぶりにすぐなくなってしまうことも多く、販売状況が読めないのが今まで京都に来たときの悩みのタネだった。今回は旅程に余裕があるので、一番購入できる可能性の高い本店を訪れてしまえと乗り込んだわけだ。もっともこの判断は半分正しく、半分間違っていたのだが。

②出町桝形商店街に行くこと。

こちらは「たまこまーけっと」という京都アニメーション制作作品のモデルとなった商店街ということで、一度見てみたかった。

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 外観。昔ながらの、人情に包まれた温かい商店街だった。

 

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 常に店の前に行列ができる和菓子店「出町ふたば」の名代豆餅。

久々にこんなに美味い餅を食べた。

ちなみに、上にあげた作品中では主人公とその家族が営む餅屋「たまや」のモデルとなっている。商店街内にはここを訪れたファンのために交流ノートが設置され、作品に携わったスタッフや声優が実際に訪れた際のコメントを読むこともできる。現実と虚構が混じり合う聖地巡礼という行為、なかなか面白い文化だなと感じる。

 

気がつくと昼も下がりに下がって夕暮れが近い。バスで京都に戻る。京都市内はバス路線網が発達しているが、その複雑さゆえなんとなく電車移動を選んでしまいがち。ただ一本で京都に戻れるのはやはり楽だった。

 

夕方、大阪駅到着。明朝には大阪を出るので、なぜわざわざ宿泊だけ大阪にしたのか計画を立てたときの自分に聞いてみたいほどよくわからない旅程ではあるが、JR乗り放題だし、時間余裕あるし、行けるやろ的なノリだったのだろう。

プレミアムフライデーで少々浮かれた大阪・梅田の街に気圧されたひとりの大学生は、天才的なスルースキルで適当な飯屋を見つけそびれること45分、ようやく駅ナカのお好み焼き屋に入った。

ひとり飯は店に入るまでが勝負、な気がする。

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モダン焼き

これがモダンな味なのね、と口の中で定義を終えた(無論美味しかった)ら、生まれて初めて大阪環状線に乗り天王寺駅へ。華金の夜の電車は混みすぎていて大した感慨もなかった。

 

いろいろ見て回りたかったのだが、外はもう真っ暗。仕方なく、まっすぐ宿屋を目指すことにする‥‥も、案外遠い上に線路の向こう側に行けずにウロウロさまよう。遠くにあべのハルカスが見えた。

 

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お金のない大学生がやりがちなドミトリー部屋。なんと一泊1500円!

写真左上のベッドで寝たのだが、二段ベッドは昇り降りの際にきしむので肝っ玉の小さい自分は下の人に怒鳴られるんじゃないだろかとビクビクしていた。幸い、下の段の方はおおらかで大きな外国人だったので、全く事なきを得た。

フロント、というか管理人さんがまず外国人で、同じ部屋に泊まった人はみんな外国人で、ここはどこですかという気持ちになった。それでもひとりで好きなことをしていればほとんどの場合干渉されない。こういうところは一人になりたいか、それとも話したいかなんとなく察してくれる人たちが集まってくれる。長期宿泊らしき家族連れが共有スペースを半分占領して夕飯をかっこんでいる横を通ってシャワーを浴びに行くのは肩身が狭かったが、対費用を考えるともう十分だろう。

印象的だったのは、部屋に戻った時に外国人同士が英語でしていたこんな会話。来たばかりの方に、この施設の設備を教えてあげていたのだろう。

「ここにはロッカーのようなものはあるのかい?」

「あぁ、それなら下の階にあるよ。鍵付きのがね」

「ふーん。鍵付きなんだね」

「まあね。でも鍵付きロッカーは日本人しか使わないさ。ぼくらが怖いんだろうね」

なんとも言えない気持ちになった。

 

【この日の移動】

表記のない矢印はJRでの移動を表す。

池袋→品川→小田原→熱海→浜松→豊橋→大垣→米原→京都→東福寺→(京阪本線)→出町柳ー(バス)ー京都→大阪→天王寺

 

 

10月21日(土)

朝8時30分

止められなかったとき同室の人に申し訳ないので目覚ましをかけずに寝るという博打に出たのだが、見事起床。平日もこれくらい早く起きようね。ところが阿闍梨餅の袋をどこかに置き忘れたことに気づき、果てしなく絶望的な気分になった。しか旅程には余裕があるので、と再訪問を決意。本当に頭が悪い。

 

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あぁ‥‥阿闍梨餅を忘れなければ法隆寺に行けたのになあ‥‥

 

天王寺駅チカの喫茶店でモーニングを平らげたあと、関西本線を経由して奈良線を使い、やって来ました宇治駅

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‥‥雨!それも本降り!

金曜1日降らなかっただけでも数多の神にお歳暮送るレベルの奇跡だと気づいた悲しきレイニーボーイは、荷物をコインロッカーにぶち込み、宇治を軽く散策することに。

あれ?出町柳に行くんじゃなかったの?と思われたあなた、甘い。雨男の勘は、午後になれば雨足は強まる一方で、宇治散策どころではなくなると踏んだのだ。せっかく来ておいて宇治を見て回れないなんて、人生のムダである。

 

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どんより。でも宇治の風景ならどんな天気でもキレイに見えてしまうのは宇治バカだからだろうか。

 

そうはいっても雨が降る前にモロモロの用事を済ませるべく、京阪宇治駅から京阪宇治線に乗車。

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おけいはんおけいはん

 

中書島で乗り換えて、2日連続の出町柳

 

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鴨川を望む。昨日より雨脚が強い。寒い。

そして阿闍梨餅を確保。昨日と違う店員さんでよかった。

紙袋に入った包みを見て、雨の中運ぶの大丈夫か?と思ったが案の定大丈夫じゃなかった。この日の終わりには手持ち部分がボロボーロ・ボロボロになって、もはや紙袋がのし紙みたいになっていた。

 

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出町ふたば」も再訪問。昨日より早い時間帯に行ったのでいろいろな種類の餅が残っていた、そりゃたくさん買ってしまうのも責められない。

豆餅と、黒豆大福と、栗大福だったかな?どれも美味美味。

次はどんなおもちが食べられるかな?(CV.洲崎綾)

 

さて、出町柳の寄り道を済ませたら、宇治に戻る。と、その前に寄り道。

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先ほどから何度も登場した京都アニメーション、その本社である。

JR奈良線木幡駅下車、改札を出て左を見るとこの黄色い建物が目に入る。

垂れ幕は"映画year"のものだった。これからもひとつ、よろしくお願いしますと参拝。

 

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ここから1分も歩かないうちにあるのが京都アニメーション制作作品のグッズを取り揃えた"京アニショップ!"。ちょうど「ユーフォ」の劇場版公開時期ということで、作中の登場人物が使用している楽器のモデルが展示されていた。

これがユーフォニアムという楽器です。

本編を見ていただければ分かるが、複雑な管の曲がりやバルブ、はては楽器に刻印されたシリアル番号まで精密に描写してあるあたり、この会社のこだわりが感じ取れる。

 

舞い戻った宇治では、宇治橋通りという広めの通り一帯を使ってお祭りが催されていた。地元の高校が模擬店をしたり、地域のお店が出張屋台をしたり、工芸品が売られていたり、それはもうさまざまあったのだが、なんせこの雨の中、想定されたよりもはるかに少ない人通りであったことは想像に難くなく、少し寂しい雰囲気となってしまっていた。

来年またこの時期に来たいものだ。しかし私が行くと雨が降るのでやめておいたほうがいいな。

 

そして驚いたことには「ユーフォ」のファン有志もテントを立てていたこと。ステージで演奏もしていたそうだ。そして来月には第2(!)回定期演奏会、つまりはファン有志による演奏会が行われると聞いて、その精力的な活動ぶりに驚いた。なかなか熱気に溢れたファンたちがここ宇治に集結しているようで、少しうれしくなった。

募集要項を眺めてみたところ、サックス属は定員に達しているそうで、残念なかぎり。吹く側でもいつか参加してみたいものだ。

 

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京の雰囲気にあふれている。散策するだけでも楽しい街だ。

 

と、ここでお歳暮を送る予定のない私についに激怒したアマタの神がエラい量の雨をお見舞いしてきた。台風はこの時点で太平洋沖をまさに近畿地方に向かってゆっくりと近づいてきており、私に対する精力的な愛に衰えはなく、私は報われない恋もあると台風に諭してやりたかったが、無論できるわけもなくずぶ濡れで宇治のトラベラーズハウスにチェックインした。午後3時過ぎのことである。

 

雨なのに大量の荷物を抱え玄関で自爆した私を温かく見守ってくださったオーナーは親切な人だった。普通の家の2階にベッドを据えて貸し出しているような形態で、家に帰ってグダグダしているような感覚は旅行をした中では初めてだったかもしれない。

そんなことよりも大問題だったのは、カバンのなかのありとあらゆる紙媒体が水を含んでモロモロになっていたことである。電車のきっぷ、もらったパンフレット、明日使うチケットに現金までもが金魚すくいのポイ状態でエマージェンシー。そこから1時間、ドライヤーを用いての乾燥戦を繰り広げた。部屋に他に人がいなくて本当に良かった。

夕飯を食べに行こうと思って外を見たら、夕闇とブラインドか?ってくらいの雨で何も見えなくなっていたので早々に断念。片道3分のスーパーにさえ行きたくなかった。

食べ損ねた昼食用のパンで食いつなぐことにし、共用スペースにあったHUNTERXHUNTERを読んでいるうちに時間は過ぎていった。たまにはこんな旅行、こんな宿泊があってもいいよね。

かくして、一泊2700円にしては清潔すぎるアタリ宿で、宇治の夜は過ぎていった。

 

【この日の移動】

天王寺→奈良→宇治→(京阪電鉄)→出町柳→(京阪本線)→東福寺→木幡→黄檗→宇治

 

 

10月22日(日)

上の人が部屋を出て行く音で目が覚めた。あとで確かめたらまた目覚ましをつけていなかったので、本当に助かった。が、本当に目が覚めたのは宿を出たところの外階段で派手に滑って落下したときだった‥‥痛いのなんの。外に出て5秒で生気を失いかけたが、私には大きすぎる希望がある。こんなところで死んでいる場合ではない!

腰をさすりつつ、JR奈良線で京都に向かう。

 

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朝食は京都に来たらかならず行く喫茶店イノダコーヒーの"京の朝食"。これ、1300円するのだが、素晴らしく美味い。こういうところにお金を使える人間でありたい。

そしてイノダコーヒーのコーヒーは他のどこよりも美味い。

 

こうしてひとり幸せな気分を回復しているというのに、台風ときたらラブコールを飛ばして私に会いに来てくれている。全く可愛くないやつだ。

そして、恐れていたことが現実となった。JR西日本や東海の運行予定を見ると、台風被害防止のためあらかじめ運転を夜の早い段階で打ち切るとの旨が。

慌てて時刻表をめくる。そもそも全て時刻表通りだったとしても、東京まで帰らなくてはいけないので京都の終電は16時なのだ。静岡あたりで降ろされても高速バスに乗り換えるという手があるが、電車がいつまで動いてくれるかも、バスが運行されるかもこの天候では全く予測できない。とはいえ月曜には授業がある。京都泊のち始発とんぼ返りというのも魅力的ではあったが、絶対に間に合わないことは火を見るより明らか。

結局、新幹線への課金を決めた。台風には申し訳ないが、全力で逃げる道を選んだのだ。

エクスプレス予約というサービスを使った。みどりの窓口に並んだり券売機まで行ったりする必要もなく席が確保できるし、PASMOを乗車券代わりにできるので失くしにくいし、とっても便利。かくしてあっけなく帰り道は確保された。

 

こうなったらあとはメインイベントを楽しむだけ。意気揚々とバスに乗り込んだ。

 

行き先が違うバスだった。

 

自分としては珍しいミス。直で行けるはずが、地下鉄に乗り換えないといけなくなってしまった。この雨の中バタバタするとヤバいぞ、という予感は的中してしまって、バスを降りてすぐにPASMOを失くした。道路を血眼になって探したら、ズボンの下から出てきた。自分でもタネを把握してない手品を突然披露するのは本当にやめてほしい。

 

なんとかたどり着いたはロームシアター京都。この日、私にとっての幸せの館である。

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物販列に並ぶと、周りには当然otakuの皆さん。びっくりするほど服装や容姿が一定の範囲内に収束していて、思わず笑いそうになった。いや、どこを見ても同じような人しかいないんだもの。いま、音を立てて飛んでくるブーメランを視界に捉えた。とはいえ、これだけの人がみな「ユーフォ」という作品を好きなのか、と思うとなんらかの感慨を覚えた。

 

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今回のイベントは京都アニメーションとその制作協力会社アニメーションDoのファン感謝イベントで、2週に分けて行われる内のステージイベントの一環である。

 

響け!ユーフォニアム」公式吹奏楽コンサート
~北宇治高校吹奏楽部 第2回定期演奏会~(昼公演)

 

劇中で演奏された吹奏楽曲を生演奏で再び聞けるというもので、作品のファンとしても吹奏楽のファンとしても楽しみにしていた。今年の下半期を生きる活力だったといっても過言ではない。

 

さて、感想である。もうね、すんばらしかった。

あんな曲からこんな曲まで、どれも素晴らしい選曲と演奏技術だった。

そのうちの一曲、「ダッタン人の踊り」は楽しみにしていた曲のひとつだったが、音、音、音にただただ打ちのめされるのがあんなに気持ちいいとは思わなかった。

メインキャラクター4人のうち3人が低音パートということもあり、曲間の間ではMCを務める声優がチューバやユーフォニアムコントラバスといった低音楽器奏者に話を聞く場面がよくみられた。他にもサックスやトランペットなど花形楽器がある中で、これだけ低音がフィーチャーされた演奏会もそうそうないのではないだろうか。

本編未視聴の方にはもうセットリストすら見せたくないのでとにかく本編を見てくれ!そうしたら話す!と面倒くさいotakuのような態度をとるしかないのが悔やまれるが、これを一つの機会に「響け!ユーフォニアム」という作品に触れてもらえたら、これにまさる喜びはない。ぜひ見てほしいと、そう願うばかりなのである。

吹奏楽という世界が舞台になっているが、描かれるのは複雑な人間関係とその成長である。吹奏楽を知らない人でも、ついていけるし楽しめる内容だ。

すまんッ!興味がないッ!という人は、縁がなかったということで、また別の機会にお会いしよう。

 

高揚感↑に包まれ会場を後にすると外は雨、強まる雨。足早に道を進み、京都駅へ向かう。この時点で確か15時30分くらいだったので、当初予定していた"終電"にはおそらく間に合わなかったんじゃないだろうか。台風が来ようが来まいが、結局は高速鉄道の力が必要だったようだ。

 

17時30分ごろ、N700系が京都駅を発車。台風からの逃避行が始まった。

自由席、それも1Aが空いていたのはラッキーだった。東京まで一切乗り換えせず広い座席でのんびりできる、こんなにしあわせなことがあるか、と野比のび太氏のようなことを思うぐらいには疲れていたようだ。

しかし新幹線というのはひどく快適だ。それになにより、台風に追われながら定刻で走ることのできる技術。先人たちに深い感謝を。

 

かくして20時過ぎ、再び東京の地を踏んだ。東京はまだ小雨。台風に追いつかれることはなかった。逃走中なら100万円を獲得したところだ。

ただいま東京。明日からユウウツな平日が始まるぜ。京都でもらったパワーを資本にがんばるよ。

この6日後私は再び京都駅に降り立つことになるのだが、それはまた別のお話。

 

sakushusen.hatenablog.com

映画「のび太の宝島」を見よう!

カンカンコンカカンカンカコンコン

カンカンコンカカンカンカコンコン

‥‥宝島違い。

 

声優が交代してリニューアルした新生・映画ドラえもんを、2006年から12年欠かさず見てきた。そんな目線から、今回の映画と、昔の映画について、少し話してみようと思う。

 

なお、このエントリでは2006年以降の映画ドラえもんしか扱わず、旧作品のリメイクであっても旧作品に言及することはしないが、それはこれより前の映画ドラえもんならびに本放送ドラえもんを否定するものではないし、またわさドラ*1を最高として位置づけているわけでもないことを明記する。こんなことを書いておかないと、思考能力を失ったのぶドラ至上主義者に殴られてしまうからね。まったく、へんなよのなかになったものだなあ。

 

目次

 

 

2006年からのドラえもん映画についてちょこっと整理

2006年からのドラえもん映画は大きく分けて2種類ある。

・リメイク‥‥旧声優*2時代の映画を原作として、もう一度現代の技術とスタッフとキャストとで再結晶させたもの。原作を忠実に再現したもの、オリジナルキャラの投入やストーリー展開の変更で少し変化を加えたものなど、作品によってさじ加減は異なる。

・オリジナル‥‥その名の通り、原作のない作品。といっても、漫画で描かれた短編を原作、もしくはモチーフとして大きな物語に広げている作品が多い。

 

せっかくリニューアルしたのにリメイク作品がなぜ作られるかといえば、なんせ話が面白いから。旧作の多くは藤子・F・不二雄先生が自ら原作・脚本を務めており、引き込まれるストーリー展開や感動のシーンにヤラレタ子どもたちが大きくなった頃にリメイクすることで、親にも子どもにもウケを狙おうというおいしい作戦だ。そして実際、リメイク作品は平均的に高いクオリティを維持している。

一方のオリジナル作品だが、リメイクに比べるとどうしても完成度の面で疑問符がついてしまうことも‥‥。それでも近年はリメイクに劣らない快作も登場しており、オリジナルといえどあなどりがたいものがある。詳しくは、このあとの作品解説を読んでくだされ。

 

 

2018年春公開、映画ドラえもんのび太の宝島」はオリジナル作品

さて、本題である。新生(もういいかげん新生という言葉を使いたくはないが)ドラえもん映画として13作目を数える今作「のび太の宝島」(以下「宝島」)はわさドラオリジナル作品としては7作目で、ロバート・ルイス・スティーヴンソンの児童文学『宝島』をモチーフとした作品である。

 

先日予告編が公開された。良い、とても良い。

 

○本作に限らず、近年の予告編のナレーションを務めているのはスネ夫役の関智一さんである。関さんはオーディションに合わせてスネ夫の声を”開発”したそう。とても同一人物の声とは思えない。声優ってすごい。

○絵柄、というかキャラデザが、限りなく大山ドラ時代のものに近くて興味深い。前作も近づいてはいたが、ここまで振り切れているのは初めてではないか?

○ミニドラーー!!好きーー!!

 

 

https://news.mynavi.jp/article/20171201-550503/images/001.jpg

ワクワク感しか生まないポスター。

前作といい、ポスターにやる気を感じる。

 

 

大物が並ぶスタッフ陣

藤子プロ創立30周年記念作品として制作側の力の入れようが見てとれるスタッフの布陣となっている。

 

監督:今井一暁(TVシリーズ・ローテ演出)

脚本:川村元気(「君の名は。」)

音楽:服部隆之(「半沢直樹」「HERO」)

演出:八田洋介

キャラクターデザイン:亀田祥倫

 

ざっと調べたところ、キャラデザの亀田氏はドラえもんでも原画を描いていて、オープニングの原画も担当されているとか。さらに演出の八田氏と共にワンパンマンに参加している。そのあたりのつながりか?‥‥と邪推。

脚本の川村元気氏は映画プロデューサーが生業で、本人のwikiを見ると「君の名は。」をはじめ数々の有名作品のプロデュースに携わっていることが分かる。小説家としてはデビュー作の「世界から猫が消えたなら」が有名か。

そして音楽。前作まではTVシリーズと同じく沢田完氏が務めていたが、今作は服部氏を迎えている。沢田氏の音楽も大好きだったが、新しい風がどう吹くか楽しみでもある。

 

いわば、外部ゲストを招いたような布陣なのである。それがどう出るか。

 

 

ゲスト声優・主題歌も豪華ね

・キャプテンシルバー役に大泉洋氏。

大泉氏はかのレイトン教授の声を担当していており、声優業にも定評があるのだ。彼の声を聞けるのが楽しみである。

・主題歌&挿入歌に星野源!!ほんと休めるときには休んでほしい

過去数年の主題歌アーティストはアニメ化されているので、デフォルメされたカワイイ彼がエンディングに出てくる日も近いかもしれないぞ!みんな毎週金曜7時はテレビの前に集合だ!

 

 

見どころ

 現時点で見どころを語るのは時期尚早と思われるが、さすがに「見よう!」などと宣言した手前、見てほしくなってくれそうなポイントを並べてみることにする。

・ミニドラ、18年ぶり映画出演。ということはつまり、わさドラ映画初出演となる。ミニドラはね、かわいい。ムジャキにしてビミョーに役に立たないあたりとか。映画ではどんな活躍をするか、はたまたどのように足を引っ張るのか?

・映画館で見る冒険活劇。ドラえもんのアクションシーンは迫力がある。キャラクター造形がシンプルな分、それを引き立てる背景や動きがカッコイイ。

・ストーリーがわかりやすい。基本路線は勧善懲悪、頭をあまり使わずとも物語の世界に浸ることができる。といってもそうじゃないこともあって、それが良いのだが。

・劇場版はガジェットに凝っているので、例えば本編ではわりとキレイに描写されているのび太の部屋に大量のマンガやガラクタが散らかっていたり、過去の劇場版のネタがそれとなく散りばめられていたり、ドラえもんが日頃寝ている押し入れにドラえもんが推しているアイドルのポスターが貼ってあったりしてスタッフのこだわりと愛が垣間見えるし、いつもキレイな空き地にもうっそうと雑草が茂っているなど、劇場版で力の入った舞台設定を楽しめる。TVシリーズを少しでも見たことがある人ならその違いに感嘆するだろうし、見ていない人にも一定のクオリティを保証するだろう。

・エンディングでは、毎年の主題歌が優秀なこともありしっとりした気分で劇場を後にすることができる(元気系の主題歌も少なくはないが)。今回の主題歌・星野源も良いものを持ってきてくれると信じて疑わないので、泣かずともジーンとすることができるだろう。

 

 

最後に

あまり見てない人向けに薦める文章を書くのは難しい。今も、どう考えてもコアなネタばかり出てきてしまうのを抑えているところである。

この機会に、映画ドラえもんを劇場で鑑賞してくれる人が少しでも増えるのであれば、一ファンとして嬉しい限りである。

 

本当はわさドラ映画過去12作の全レビューとおすすめをして過去作にも手を出してもらいたかったのだが、あまりにも文章が膨らみそうなので、次回に回すこととする。そちらもお読みいただければと思う。

 

 

追記:星野源で一番好きな曲?よく「知らない」なぁ。

*1:声優交代後のドラえもんの総称として、ドラえもんを演じる声優水田わさびの名前を借りて便宜上こう呼んでいる。

*2:あんまりこの言い方も好きではない‥‥